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2/29/2020

如月 2月

今月は、私が陶芸に出会う前の話を少ししたいと思います。

大学では芸術学科で日本美術史を学んでいたのですが、その傍らでカメラにのめり込み、学生生活と平行してある写真家さんの事務所に出入りをしていました。写真学校の学生だったらお金を払ってでも見たいような現場にもたくさん行かせていただきましたが、特に厳しい商業写真の世界では、アシスタントのアシスタントぐらいの働きしか出来なかったように思います。
しかし暗室作業は向いていたようで、多くの作業を任せていただけるようになり、シルバーゼラチンプリントの腕前は確実に上がりました。とはいえ、今はすっかりデジタルの時代になってしまい、この技術を発揮する機会はありませんが・・・。

その後、大学や写真事務所を離れてからも写真を続け、2008年には現代美術に関する著書の多い山口裕美さんの「THE POWER OF JAPANESE ART」(アスキー)という本で6ページにわたり紹介していただきました。しかし、もうこの頃には陶芸の世界に片足を踏み入れており、私を取り上げてくださった山口さんには申し訳なく思いましたが、これが私の写真家としての最初で最後の仕事となりました。

フィルムカメラはほとんど手放したのですが、写真(下)のカメラだけはどうしても手放せず大切に手元に置いている一台です。そしてカメラの右上の写真は前述の「THE POWER OF JAPANESE ART」より坂の多い町、尾道がもし平坦だったらと仮定して撮った一枚なのですが、今月、その尾道が出てくる小津安二郎監督の映画、「東京物語」をちょうど観たので、やや強引にその話に続けたいと思います。

「東京物語」、初めて観たのは大学生の頃でしたから、家庭を持った今では親子の心情など、あの頃よりも多くのことが理解出来ました。10年や20年、間を大きくあけて映画を見直すのもなかなか面白いものです。父親役、笠智衆の調子が淡々としているだけに、娘役、杉村春子の意地悪で憎たらしい演技が際立っていて、改めて演技のうまさに驚いてしまいました。
しかし生涯独身だった小津監督はよく「家族」というテーマをここまで細やかに描けたものだと不思議に思います。いや、むしろ客観的にいろいろな家族を見ている方が本質が見えてくるものなんでしょうか。いずれにしろ、「東京物語」は私にとって家族とは?人間とは?といった問いに答えてくれる教科書のような作品であり、月並みな表現ではありますが、「不朽の名作」です。